無料メルマガ2020年9月28日記

2020年9月28日記

【NY金期近は1800ドル前後で下値を支えられるかが焦点】

〇 金が右肩上がりに上昇するという幻想はもう捨てた方がいい

金は、8月にNY取引所の先物価格が2000ドルを超えて、これまで以上に注目度が高くなっています。
そのため、商品先物を取引したことのない方でも、金の取引を考えている方が多くなっていると思います。
初めて金のチャートを見る方は、NY金期近が8月6日に2063ドルの史上最高値をつけた後、9月23日に1859.9ドルまで下げているので、押し目買いの好機と考えたくなるところです。
金は、煽り記事が多いので、いつまでも上昇を継続すると思い込んでいる方も多いかもしれません。
そのような予測を期待して読んだ方をがっかりさせないよう、最初に書いておきます。
金の本年の7月から8月にかけての上昇は、大勢の上昇局面の最後の吹き上げ場面であり、今後の価格が8月の高値を超える上げ場面があらわれても、8月の高値以上を積極的に取りに行く展開にならないと考えられます。
金が右肩上がりに上昇し続けるという「幻想」を追い続けられる期間は、すでに終了しています。
現在は、実際の価格がすでに天井をつけているのか、いつ頃、天井をつけるのかを考えなければいけない状況へ入っています。

〇 金は年の前半に下げて、年の後半に上昇する

商品先物市場は、円滑な経済活動を行うために重要な「もの」を安定した取引ができるようにするために存在しています。
「もの」には、それを頻繁に使うことが多い需要期や、その「もの」が供給されやすい時期、供給が滞りやすい時期があります。
当然、需要期には価格が上がりやすく、需要期の終盤に戻り高値をつけて、下降の流れへ入ることが多くなります。供給量の増える時期には、価格が下がりやすくなります。
その「もの」を実際に販売している側の人たちは、需要期に価格が上昇を開始する前に、先物で買いを入れておき、需要期に価格が急上昇しても、想定した金額で仕入れを行えるようにすることを考えます。生産している側は、需要期の価格が高くなった地点で、先物へ事前に売りを入れておくことを考えます。

2014年に原油価格が暴落したのを覚えているでしょうか。
NY原油期近は、6月頃から価格が下がり始め、10月以降に下げ幅を拡大して、15年年初までの暴落へつながってゆきます。
原油は、11月から12月頃が年間を通じてもっとも下げやすい時期になります。下げやすい時期を前に、徐々に下降の勢いが強くなり、一気に下げ幅を拡大しました。

この原油暴落には、さまざまな陰謀論が噂されました。
14年2月にウクライナ内戦に乗じてロシアがクリミアへ侵攻しました。その後、3月に米エネルギー省は、戦略石油備蓄放出の方針を示しました。供給過剰感のある中での動きであったことから、原油価格を下げて、ロシアに対して圧力をかけたのではないかという見方があります。
米国のシェールオイル大手は、採算コスト割れとなれば、生産を中止することになるので、サウジアラビアがシェールオイルを潰しにかかったのではないかとも言われました。
イスラム国が安価で原油を売りさばき、資金源としていたことから、その流れを止めるためだったとも言われています。

当時は、NY原油期近が100ドルを大きく下回る価格で安定すると、産油国が財政難に陥り、採掘企業が採算割れとなる状況でした。
供給側の事情を考慮すれば、だれもが困るような価格形成にならないと推測できる場面でしたが、価格は、リーマンショック時の下げ場面に匹敵する暴落となりました。

この時、実は、米国のシェールオイル大手が、90ドル以下に価格が下げても、15年の秋頃まで十分な利益を確保できるように原油先物でヘッジをかけていたと言われています。
先ほど、3月に米エネルギー省が戦略石油備蓄放出の方針を示したと書きました。米国は、自国企業をつぶすような政策を実行するわけはないのです。

話を元に戻します。
今回のテーマである金にも、需要期があり、はっきりとした季節性が値動きにあらわれています。
金が買われる理由には、「宝飾用需要、工業用需要」と「米ドルの代わりの資産として保有」があります。
金の宝飾用としての需要期は、10月頃から翌年の2月ごろまでの期間になります。10月は、インドの結婚シーズンです。12月はクリスマス、年末へ向けた需要があります。2月は、中国の旧正月で、需要が高まります。
ドルの代わりとして、金が買われやすくなる時期は、米国の年度末である9月を前にした時期です。
以上の季節性からおおざっぱに見られる金の1年間の値動きは、以下の通りになります。
まず、米ドルの代わりとして、金の価値が高くなる年は、9月の前から上昇を開始します。
その後、年末、翌年の2月頃まで、金そのものが買われる需要期に向けて、価格が上昇の流れを作り、年末、2月、4月頃に戻り高値をつけた後、下降を開始します。
価格が積極的に下値を掘り下げる時期は、年の前半になります。

このような金の季節性から現れる値動きは、リーマンショック後、少し変わってきています。

〇 金はドルの価値が下がるときに上昇する

先ほど、金が米ドルの代わりとして買われると書きました。米ドルの価値が下がると、逃避先としての金に人気が集まり、価格が上昇します。
金は、インフレとなって紙幣の価値が下がるときに上昇する傾向があります。また、米ドルの供給量を増やしているときも、米ドルの価値が下がり、金が買われやすくなります。
リーマンショック前までは、金利上昇局面で金が長く上昇の流れを作る傾向がありました。
リーマンショック後は、米国で通貨供給量を極端に増やしたことで、米ドルの価値の低下と、米ドルの供給量が極端に増加したことで(潤沢な資金による)投機人気が高まって、価格が一気に史上最高値を更新し、未知のゾーンへ突入しています。

〇 金は投機的な価値だけの値位置になっている可能性がある

金の季節性は、リーマンショック後、変ってきているように見られます。
その理由として推測できることは、宝飾用、工業用需要による価格形成が右肩上がりにならないということです。これらの要因での需要は、価格が高くなると需要減となって上値を抑えます。
リーマンショック後の値位置は、米ドルに代わる資産としての価値に投機人気が加わってあらわれたものです。現在の値位置では、すでに宝飾用需要が高まったところで、金価格を新高値へ押し上げる要因にならなくなっていると考えられます。
NY金期近の現在の上昇は、2015年12月から始まっています(2015年12月以降の上昇は、政策金利を引き上げることによってあらわれた動きです)。
2016年以降で1年間が強気に推移した年は、2016年、2017年、2019年が挙げられます。
2016年は、7月6日に年間の最高値をつけています。
2017年は、9月8日に年間の最高値をつけています。
2019年は、9月4日に年間の最高値をつけています。

〇 今回の金の上昇は新型ウィルスのための特需に過ぎない

2008年以降の1000ドル以上の値位置は、米ドルの供給量を増やす作業によってあらわれたと前述しました。
この見方が正しければ、今回の上昇局面は、新型ウィルス対策の終了を前にピークをつけることになります。
だとすれば、現在は、8月6日の高値2063ドルがピークになって、すでに上昇分を修正する下降局面へ入っているか、大天井をつける過程で、天井型を形成する動きへ入っているかのどちらかが考えられます。

〇 NY金期近の今後の見方

2016年以降の季節性を考慮すると、NY金期近が年末へ向けて上昇を開始して、2063ドルを超える展開にはならないと考えられます。
今後、価格が上昇を開始して、2063ドルを超える動きがあらわれるとするなら、その時期は、7月から9月の範囲になると考えられます。この上昇は、極端なインフレによるものでないなら、2063ドルを大きく上回る動きにならない公算です。2063ドルを大幅に超える動きがあるとするなら、最後の吹き上げ場面で、数日だけ、一気に上げ幅を拡大して天井を作る動きになる場面だけだと推測できます。

来年、新高値を更新する上昇があるなら、その上げは、本年と異なり、上値の限界を確認する作業だと考えられます。
価格が8月6日の高値2063ドルから大きく下げることになれば、もう、2063ドルを超えられる余力を残していないと考えられます(本年以上の財政出動、金融緩和があるか否かを想像して下さい)。
つまり、来年、7月から9月の時期に新高値をつける動きになるか否かは、現在の下げがどこで止まるのかによって見えてくることになります。

金は、年の前半が下げやすいという季節性を思い出して下さい。
来年の前半、はっきりとした下降の流れができていれば、6月、または8月頃までの期間で、積極的に下値を掘り下げる流れなる可能性が大きくなります。
そうなってしまえば、当面、2063ドルの突破は難しくなります。
来年前半に価格が積極的に下げないためには、来年2月頃までの買われやすい時期に、下値堅い値位置を作っておく必要があります。
典型的なパターンは、1800ドル程度で押し目をつけて、来年前半まで、ボックス型中段もちあいのような動きになる展開です。

今後、積極的に価格が下げて、1800ドルを大きく下回る展開になるなら、2063ドルが大天井の可能性を考えておきます。
1800ドル前後で下値堅く推移するなら、来年、2063ドルを超える動きがあらわれる可能性を頭のすみに入れておきます。

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